あらゆるがんの中でもっとも難しいがんとされる「膠芽腫」(こうがしゅ)は、脳腫瘍の一種で、神経細胞を支えるグリア細胞から発生する悪性の脳腫瘍だ。平均余命は15カ月。MRI(磁気共鳴断層撮影)で膠芽腫を疑う画像は白い環が特徴的なリングエンハンスである。中央の黒い部分は腫瘍によってすでに壊死し、それを取り囲むように腫瘍と思われる部分が写っている。「がん征服」(下山進著)は、この最凶のがんとされる膠芽腫の治療法がテーマで、手術や抗がん剤、放射線といった標準療法のその先にある治療法を取り上げた。その治療法とは原子炉・加速器を使うBNCT(ホウ素中性子捕捉療法)。楽天の三木谷浩史氏がバックアップする「光免疫療法」。それと東大医科学研究所の藤堂具紀氏が開発した遺伝子改変ウイルスのG47Δが承認を得て、メディアが「世界最高のがん治療」と礼賛する「ウイルス療法」だ。
![]()
「がん征服」 下山進著
本書はこの三つの療法の開発史が絡みあうように進んでいく。探索研究、実用化にむけてのスポンサー探し、承認のための治験、規制当局との承認プロセスなど、比較をしながら読み進めていくと、意外な事実が待ち受けていた。それは三つの療法で膠芽腫に対し現在、承認されているのは「ウイルス療法」だけであり、その承認が公正に行われているのだろうかという疑問だ。
「ウイルス療法」は19例のフェーズ2で承認をされた治療法だが、下山さんは日本のテレビ番組や雑誌で「画期的な治療法がついに承認された」ともてはやされているのが、まったくわからなかったという。その素朴な疑問から始まった調査で、2014年の薬事法の改正にいきつき、有効性の証明でも確認でもなく、「推定」で市場にだしてしまうという「再生医療等製品」のトラックができたことを知ったことになる。
「がん」に関するかぎり、ほとんどすべての報道が、専門家の言い分をそのまま報じるというものであり、単行本や新書も研究者自身によるものが多いと下山さんは指摘する。「しかも、そうした報道や本では、治療法の開発に密接にかかわっている政治や経済について
は書いていない。ここに自分がこのテーマをやる意味があるとわかったのは、調査をして半ばをすぎたころのことだった」。261ページの内容は読みごたえがあった。

「がん征服」 下山進著
本書はこの三つの療法の開発史が絡みあうように進んでいく。探索研究、実用化にむけてのスポンサー探し、承認のための治験、規制当局との承認プロセスなど、比較をしながら読み進めていくと、意外な事実が待ち受けていた。それは三つの療法で膠芽腫に対し現在、承認されているのは「ウイルス療法」だけであり、その承認が公正に行われているのだろうかという疑問だ。
「ウイルス療法」は19例のフェーズ2で承認をされた治療法だが、下山さんは日本のテレビ番組や雑誌で「画期的な治療法がついに承認された」ともてはやされているのが、まったくわからなかったという。その素朴な疑問から始まった調査で、2014年の薬事法の改正にいきつき、有効性の証明でも確認でもなく、「推定」で市場にだしてしまうという「再生医療等製品」のトラックができたことを知ったことになる。
「がん」に関するかぎり、ほとんどすべての報道が、専門家の言い分をそのまま報じるというものであり、単行本や新書も研究者自身によるものが多いと下山さんは指摘する。「しかも、そうした報道や本では、治療法の開発に密接にかかわっている政治や経済について
は書いていない。ここに自分がこのテーマをやる意味があるとわかったのは、調査をして半ばをすぎたころのことだった」。261ページの内容は読みごたえがあった。